「二川さん、なんか歌えるよね?」

「え… 」


「おおー!!良いじゃんいいじゃん!」
「みずほ歌上手かったもんねぇ〜〜」

「いや、それカラオケでしょ?!」
「聞いてないよ…はる君!!?」

「ん?」はる君が首をかしげる

いや!

いやいやいや!!
う?え?
ん?っじゃないよ!!
なんだそのSな笑みは!
さっきまでお姉ぇさんに翻弄されちゃよ系気弱男子君だったじゃん!
不思議系ではあったけども…
とんだ隠しギミックだよ!
ここでS‼︎
う、そだ、、ろ…

「カラオケと一緒だよねぇ?」
サキがはる君の膝を
ポンポン叩いて尋ねる
「うん、そうだね」笑
はる君の笑み
うわ、今日イチ楽しそう…

「じゃあそういうことで、
よろしく!」カナが
はる君の隣の
植え込みを指して合図する

私は渋々立ち上がって、
はる君に戸惑いの顔を見せつけながら
トボトボ植え込みに向かった

やっとはる君の斜め前まで来て、
ムッとした顔を見せてやろうと
近づけると、はる君はギターの方だけ見ながら、
「何が歌える?」と平坦なトーンで尋ねた

憎たらしい限りである

「さっきのブランズとかなら、結構歌えるかも、、」

ふっと はる君が笑う
「二川さん渋いね、意外」

「はる君が弾いたんじゃん」
私も隣に座りながら
「まぁ高校生が好きそうな歌ではないよね」と少し はにかんでしまった

「じゃあ、鯨」

「うん」

ぽんぽんぽんと幾らか彼は
それを鳴らして
目が合図を送る

おぉぉお!と二人が拍手して

演奏が始まる

小気味良いギターの音
私にも分かるくらいに
ちょっと荒くて
それがちょっと安心させてくれるものでもあって

もうすっかり暗くなった夜の
駅前通りに、都会みたいな光が溢れて

駅の灯りに照らされたはる君の白けた顔半分と、
サキとカナの影になっても濃い顔を
見比べながら

思い出しかけた歌詞を
頭の中で
追いかけた

すーっと吸って歌い出し

少し間違えてもう一回

ってなるかなって思ったのに

やってみたら意外と軽快で

ぬるい空気と冷えた風が
順に身体をくぐって
気持ちいい

でも、やっぱり一番と二番の歌詞はごっちゃになって、あとで気づいて、
少しテンパって歌えなくなって


そしたら、ギターが少し先で待っててくれて、急いで追いかけた

暮れた街にも、相変わらず人は入れ違いを繰り返して
怖い顔で忙しなく通り過ぎていくだけだけど、
さっきまでとは違う景色が

いやもちろん時間を違えば、
陽の光も、座ってる向きも違うんだけど、、

それでも、
こちら側の景色は格別だった

身体が熱い、頭が熱い、喉が熱い
風邪ですか?違います
身体の芯の熱が頭まで突き抜けていく様な、それなのに、また…
喉を伝って目の前の空気に、
三人の目の前を歩く人達の耳に伝っていく様な、歌いながら
皆んなにもっと聴いて!!って叫びたくなる様な、そんな熱さがいつまでも心地よかった

うおぉぉおおおぉお!!!パチパチぱちぱちパチパチぱちぱちパチパチぱちぱちパチパチぱちぱちパチパチぱちぱち‼︎‼︎!!!!!!‼︎‼︎!!!!!!‼︎‼︎


「すげぇー!!」
「やっぱうまかったじゃん!!」

「あっしらの見る目は正しいね」
「あんた、大物になるよ」

「みずほの見る目も正しいね」
「いやーホレんのも分かるわ」
「油断してたら、いってたね
「いってたいってた」

街の喧騒…というか、、一部の喧騒が一気に押し寄せてくる

この感じも堪らないなぁ….と、
思ってしまった

ー 視点変更 : 雪見春樹

「デビューしなよ!デビュー!!」
「売れるよね?」
「売れる売れる!」
「めっちゃCD買うし、うちらで笑」
「ね?」
「いやぁ、わからん、、
曲が良かったらな」
「いやぁきびしいね」
「音楽業界厳しいからね
「そうね、音楽業…

「いや、デビューするていの話とかで盛り上がらなくて良いから、、!
てか、あんたらが買ったとこで所詮2枚位しか変わんないでしょ」笑

二川さんが止めに入る

「あっ?うちら、100枚ぐらいタワー買いするかんね!なめんなぁ
「もち、良かったらね、、
あぁーでも、うちら厳しいからなぁ…
「ちょっと厳しいかもだよね、
「.んね、」

「もー良いから、、笑
帰んなぁ、もう結構な時間だよ笑
あたし達もだけど」

昔もこんな感じで
話してたんだろうなぁ

「んじゃ!帰るわ.御幸せにねぇ」
「CD出す時連絡してねぇ」

街の灯りの影になった二人は
駅の灯りで顔が見える方に向き直って
ばいばいーっと手を振る

鞄の群れた飾りが、
ゆらゆら揺れて なんだか
似合ってるなぁと思った