「おじさんは、なにやってるひと?」
ごく自然に、タメ口で喋っていた。垣根を感じさせないひとだと思った。
「あそこ」
彼は右腕をまっすぐ前方に伸ばし、住宅街の方をを指差した。
「あそこの角のとこに、古いアパートあったでしょ。あれを今、壊してんの」
「えっ」
「解体工だから、俺」
カイタイコウ。言葉の響きはあたしの中で、数秒遅れて漢字変換された。
解体工、か。

「やべ、時間だ」
おじさんは立ち上がってお尻をはたき、立ち上がった。
「明日も来る?」
ごく自然に、そう訊いていた。
「来るよ。3時から30分だけ、休憩なんだ」
にっと笑って、彼は言った。
その貴重な休憩に、煙草を吸うでもなくスマホをいじるでもなくアイスを食べるのか。
そう思うとおかしくて、わたしはくすくす笑った。