どれほどの時が過ぎただろうか。

やがてあきらめにも似た気持ちが悲しみを静めた頃、不意に蒼絃が現れた。

「朱鳥、ここにいたのか」

「兄君」

「おいで、話がある」

話ならここでもできるのに?と疑問に思いながら兄についていくと、そこは朱鳥が足を踏み入れたことがない部屋だった。

壁に仕切られて扉があるその部屋は、陰陽師である父と兄だけが入ることを許されている。

先に入った蒼絃がともす燈台の灯が、扉の隙間から広がった。

「入ったら扉を閉めて」

「……はい」

扉に手をかけ、そっと閉じてから恐る恐る振り返った朱鳥は、驚きの声を飲み込んだ。

――え!?

大きな星のような模様が描かれた床の中央に、ひとりの女性があおむけに倒れている。


「こ、この人は? い、生きているのですか?」


「ああ、今は眠っているだけだ。と言ってもこの姿は実体ではないが」

よくよく見れば、女性の体は透けていて床の模様が見える。

女性は、見たこともない服を身に着けていた。違和感は服装だけでない。成人の女性ならもっと長いはずの髪が胸のあたりで切り揃えられている。

「いったい、この人は?」

唖然とする朱鳥が蒼絃を振り返ると、横たわった女性を見つめたまま彼は驚くべきことを口にした。


「彼女は千年の時を超え、ここにいる」