空が夕焼けに染まり、それから更に時が経って夜のとばりが落ちた頃、蒼絃が帰ってきた。

普段なら行った先の話を聞きたがる朱鳥も、今夜はずっと空を見上げている。

ぽっかりと浮かんだ満月は、隠す雲もなく銀色に輝いていた。

そう遠くない秋の到来を告げる虫たちも、今宵は鳴くことも忘れ月を見上げているのかもしれない。不思議なほど静かな夜だった。

もう寝なければと思いつつ、寝付けない朱鳥は簀子に座り、ぼんやりとその丸い月を見上げていた。

明るく大きな月のなかに、須和の君が浮かぶ。

『結局、ここ左大臣家の姫を迎えることになったが、それはそれで良かったのかもしれない。あの野の花のような純真な姫を、醜い権力闘争に巻き込んでは可哀そうだ』

どんなに見つめても、月の中の須和の君が見つめ返してくれることはない。


――あぁ。

深いため息が漏れた。