ガラガラと音を立てながら、ゆっくりと牛車が進む。

帰り道の牛車には左大臣からの土産物が山と積まれていたが、蒼絃も朱鳥も宴の余韻を残すことなく、ただ静かに揺れに身を任せている。

「疲れただろう?」

朱鳥は素直に頷いた。
「はい」

実は、舞を演じたこと自体はそれほど疲れをよんだわけではない。

突き出した釣殿に立った朱鳥からは、宴に集まっている人々の姿はよく見えなかった。

蒼絃が吹く笛の音に合わせて式神が楽しそうに笑うので、朱鳥も心から楽しんで舞うことができたし緊張もしなかった。

疲れた理由は他にある。

荘園の君を見つけたまでは良かったが、既に北の方を迎えていたということまで知ってしまった。

喜びと悲しみが一気に襲ってきた現実を、朱鳥は受け止めきれないでいる。