稟議書やらの確認すべき書類に目を通し、次の会議での資料のチェックに入った。
最後の一枚をカサリと置く。
一旦窓の外に目をやり、洸はそのまま中指でトントンとデスクで音を立てた。
ふいにそのまま視線だけを動かすと、鈴木と目が合う。

「君、なにか怒ってるの?」

「いえ別に」

「ここ数日、やけに睨まれているような気がするんだけどね」

「気のせいですよ」と鈴木は答えたが、実は無意識のうちにも自分が睨んでいたことに自覚はあった。

洸を見るとついつい蘭々の震える肩を思い出してしまう。
今は愛する恋人がいるので、その肩に気づかぬふりをするしかなかったが、何しろ蘭々は鈴木の初恋の相手だ。想いを告げることなく恋をした瞬間終わってしまった恋ではあったが、それでも恋は恋。
その初恋の相手が、自分と同じような心に秘めた恋を彼に懐き、おまけに失恋をしたという突然の告白を聞いてしまった。
もちろん、彼に罪はない。
ーーが、しかし。

「二十日に休むことにした」

ちらりとカレンダーを見ればその日は月曜日。
そしてその日は西園寺洸の誕生日である。
彼女と楽しいイベントが待っているのだろう。そう思うとつい嫌味の一つも言いたくなった。