「理由は教えてくれないけど『そんなものに心を奪われるようじゃ、それこそヒーローにはなれないね』って」

鈴木は、どう答えたらいいのかわからなかった。
その話のまま続けるなら、彼はヒーローでいることをやめたということになる。

「それを聞い時、私の初恋は破れたと思ったわ」

もう忘れていた遠い初恋の記憶。

誰にも言ったことがない秘密なのに。
蘭々は何故そんな話を口に出したのか自分でもよくわからない。

ただ、廊下で洸に呼び止められて、
『蘭々、困ったことがあったら何時でも言って』そう言われた時、失恋の痛みがまざまざと蘇った。


はじめて遠く感じた――親友。

「じゃあ、またね、生徒会長」
「ええ、また」

マネージャーが待つ車に乗ると涙が溢れだした。
「ちょっとセンチメンタルになっちゃって」と言い訳をして、蘭々は泣いた。

薄暗い地下の駐車場で蘭々を乗せて走り出した車は、間もなく角を曲がって見えなくなった。それでも鈴木はスイッチが切れてしまったように動けなかった。

微かに震える肩に気づかぬふりをして、
『初恋は叶わぬものと、相場が決まっているんです』
そう口にすることが精一杯だった。