春の花が咲き乱れる中、左大臣家の宴の日を迎えた。

朱鳥は兄の蒼絃とふたり牛車に乗る。

ゆっくりと進む牛車の中は畳だけでなく、ふかふかの茵(しとね・座布団)が敷いてあるので乗り心地はそう悪くはない。

滅多に外に出る機会がない朱鳥にとって牛車での外出は、大層楽しみな出来事だ。

いつもなら物見窓からこっそり外を覗いては、あれは何これは何と兄を質問攻めにするのだが、今日は違う。

おとなしく座ったまま、硬い表情で瞼を落としていた。

「無理をしなくていいんだよ?
 気が重ければ物忌みだとか言って、引き返せばいいんだから」

少し心配そうに蒼絃が声を掛けた。