澄み渡った碧空に、琴の音が溶けてゆく。

視線を落とせば、ゆったりとうねった遣水に鳥の形をした盃がゆるゆると流れ、
そこかしこに席を置く貴族たちが、短冊を手に筆を進めている。

「曲水の宴か」

姿は見えないが、隣りにいるはずの鈴木が「優雅ですね」と答えた。

水を流れる盃が自分の前を通り過ぎるまでに歌を詠むという平安貴族の遊びだ。

先を進むにつれ、煌びやかな衣をまとった公達が意味ありげな流し目を送ってきた。

左を見ると、風もないのに深紅の枝垂れ紅葉が揺れ、
ヒラヒラと遣水の水面に落ちクルクルと回りながら流れていく。

不意に見たこともない美しい蝶が現れた。

キラキラと鱗粉を輝かせながら舞いゆく先に目をやれば、陰陽師だろうか、

白い狩衣を着た若い男の肩に、美しい蝶がとまる。