僅か30センチの恋


家に帰るとお袋と父さんが
夕飯を食べていた。

母「おかえり、李人。夕飯は?」

李人「いい。食べてきたから。」

母「そう。」

部屋に戻り向かい側の部屋を見る。
時刻は午後8時半。
スズはまだ帰ってきてなかった。

9時になっても9時半になっても。
向かい側の明かりは灯らない。

本当に好きという気持ちは厄介だ。
幸せな誕生日を過ごす事を
願っていたのに、寂しいとも思う。
スズの誕生日を俺は祝えない。

キッチンへ向かいビールを取り
音のない部屋でそれを飲む。
無音のせいか外の音が
やたらと鮮明に聞こえる。
閑静な住宅地に面した
少し遠くにある大通りを通る
車の音さえ聞こえてくる。