夏のピークを過ぎて、でもまだまだ蒸し暑い9月上旬。とうとう今日、ワタナベ食品の新商品キャンペーン効果分析の報告会を終えた。
パワーポイントでの説明後、いくつかの質疑応答も終えて、私と島崎くん、それから同行してきたうちの営業の小高さん、3人で頭を下げた。聴衆には広告代理店の人など初見の人も数人いたけれど、香川さん、谷本さん、仁科さん、そして山神さんがとくに大きな拍手をしてくれた。


「今日、とても良い報告でした。今後のキャンペーンにも活かせそうです。今回、商品の売り上げもよかったし万々歳ですよ。短い間でしたがお二人と仕事ができてよかったです、本当にありがとうございました」

香川さんが深々と頭を下げた。なかなか厄介な人だったけれど、仕事熱心故でもある。基本は優しいし、憎めない人だった。

「今日のプレゼン、とても参考になりました。ありがとうございました。お二人とも、いいコンビでしたね」

仁科さんも笑顔で褒めてくれる。

「ありがとうございます。僕は先輩の品田に面倒見てもらってばっかりでした。今後も、こうしたキャンペーン分析の案件がございましたらぜひ品田を指名でお願いします」

「島崎くん!島崎も、すごく熱心で優秀なので、ぜひ覚えておいてください」

私たちはそろってもう一度頭を下げる。
二人して二か月ちょっとかけて取り組んできたこの案件が、ついに終わったのだ。しかも、ワタナベ食品の皆さんの反応を見る限りではかなり手ごたえがあったようだ。苦労したけれど、やってよかった。達成感と嬉しさで、なんだか胸がいっぱいだ。


会議終了後、香川さんがプロジェクタなどを片付けている合間に、仁科さんがちょっとにやにやとしながら話しかけてきた。
「ね、二人って付き合ってるの?」

「へっ!?」

私は一瞬何のことかわからず、間抜けな声を上げてしまった。

「誰と、誰がです!?」

「あなたと島崎さんに決まってるじゃないですか!俺ずっと気になってたんだよな~。二人とも話す時の距離近いし、お互いがお互いを褒めたり庇ったりしてるからさ。ね、どうなの?」

(それ、山神さんに言われたやつ…!やっぱり皆さんにそう思われてたんだ…!)

「仁科さん!社外の人にそんな話を振らないでくださいよ!下手したらセクハラとか言われますよ?」と香川さんが口を挟んだけれど、仁科さんは「このぐらいいいじゃん」と食い下がる。

「そ、そういうんじゃないです。私たちはただ同じ部にいるってだけで…」

慌てて否定するも、どうもワタナベ食品の皆さんは半信半疑らしい。山神さん以外の人は、みんなニヤニヤしながらこっちを見ている。事情を知っている山神さんだけが、素知らぬ風で会議室の片づけをしていた。いや、彼の場合は単に私のそういう話に興味がないだけかもしれないけれど…。

「品田の言う通り…ただの同僚ですよ。ま、この大仕事が終わったので近いうち二人っきりで打ち上げしたいと思ってますけど。ね、品田さん?」

「えっ…?そ、そうね。打ち上げはしなきゃ。というか急に何?奢ってほしいとか!?」

「ふふふふ、どうしようかな。僕、牛肉が食べたいな~。焼き肉か、すき焼きかな~」

「牛…うう…き、給料日の後でね…」

「微笑ましいなぁ。島崎少年、打ち上げでしっかりアプローチするんだぞ」

「仁科さん、だから私たちはそういうのじゃ…!」

私たちのやりとりを見て、とうとう香川さんも谷本さんも声を出して笑いだした。