「…ふふ、カフェオレは子供の飲み物だって言ってたくせに、コーヒー牛乳はいいんだ?」

「だから!高校生の時までだよ!高校生はまだ子供だろう」

山神さんは必死に反論してくる。珍しく焦った顔をしている。山神さんがこんなに照れて焦っているのがおかしくて、いじらずにはいられない。

「弓弦も可愛いところがあるでしょう?今でこそこんなに図体がでかいけど、中学校3年までは身長も低くてね、とっても可愛かったんだから。昔のアルバムを出しておいたから一緒に見ましょう」

「なっ…!そ、そういうのは、もっと婚約が決まってから、結婚式のムービーに使う写真選ぶ時まで取っておいてくれよ…!」

ますます焦る山神さんをしり目に、私は前のめりで「見たいです、ぜひ」と返事をした。お母さんは「すぐに持ってくるわね」と席を外した。お母さんの姿が見えなくなったところで、山神さんに腕をこづかれる。

(おい、お前…悪ノリが過ぎないか)
(だって!彼女なら普通、見たいって言うでしょ!私は彼女になりきってるだけだもん)
(くっ……それはそうだが…)

「じゃあハイこれ、一緒に見ましょう!赤ちゃんの頃からあるわよ~」

お母さんはどさっと数冊の分厚いアルバムをテーブルに広げた。

「…………くそ…。どんだけ持ってきてんだよ…」

ため息を吐いて頭を抱える山神さんは置いておいて、私とお母さんはアルバムを開いた。お母さんがパラパラとアルバムをめくって、「これが弓弦、こっちが弓弦」と山神さんを指さしで教えてくれる。今のちょっと怖い雰囲気とは大違いで、目がくりっとして顔が小さくて、とてもかわいらしい男の子だった。
(や、山神さんにこんな天使のような時代があったなんて…!)
感動のあまり、思わず今の山神さんと写真の山神さんを見比べてしまった。山神さんは忌々しそうにこちらを睨んできたけれど、スルーしておく。
と、ある一枚の写真でお母さんが手を止めた。

「弓弦はね、愛想はないけど本当は優しい子なのよ。これは小学校4年生の時なんだけど、同級生の女の子が男子に筆箱を隠されたことがあって、暗くなるまで一緒に学校に残って探してあげて…しかもその子を家まで送ってあげたの。感謝した向こうのお母さんが弓弦にお菓子をくれて、そのお菓子を持って笑顔で帰ってきた時の写真よ。帰りが遅いのを心配してたこっちの気も知らないでね」

お母さんが教えてくれたその写真には、袋いっぱいのお菓子を抱えて満面の笑みを浮かべる山神少年の姿が映っている。

「それからこれは5年生の時の林間学校で、はしゃぎすぎて足をくじいちゃった友達の荷物を全部持って、肩を組んで歩いてあげてる時の写真。…こっちは、学校に迷い込んだ野良猫にお小遣いで缶詰めを買って食べさせている時の写真。それから……」


お母さんは延々と山神さんの話を聞かせてくれた。そして、そのどれもが優しくて心温まる話だった。今回の事故で彼が自分より私のことを気遣ったり、見舞金を突っ返したりしたのもうなずける。多くを語らないけれど、彼はこういう人なのだ。


(それに、お母さんとの関係も良いみたいね。連絡はマメじゃないみたいだけど、こうやって色々話をされても怒ることなく聞いてるし)
ちらっと山神さんを見ると、不満そうではあるけれど、怒っている様子はない。きっと家族に対しても優しくて、お母さんにとって自慢の息子なんだろう。
一通りアルバムをめくったあとで、「ところで遥さんは、どんな子供だったのかしら?」とお母さんが聞いてきた。