そして、私たちは山神さんの実家の最寄り駅に着いて、さらにそこから10分ほど静かな住宅街を歩いた。

「……ここ」

ある一軒家の前で彼が足を止めた。

「え、ここ!?…うわぁ、立派なお屋敷ね…!」

「大した家じゃないよ、古いし」

彼の実家は白い外壁が眩しい洋風の一戸建てだった。大きな門に広い庭もある。

(昭和って感じのする戸建てを想像してたんだけど…全然違った…)

「…打ち合わせの時にも言ったけど、父は単身赴任でいないから。父の話はしないでくれ」

「…わ、わかってるわ」

おしゃれで広い家に戸惑う私をよそに、彼はすぐインターホンを鳴らした。そして返事も待たずに門をくぐり、玄関の扉を開けた。
いよいよ本番だ。粗相がないようにしなければ、と緊張する。


「おかえりなさい」

家の中に入ると、廊下から優しそうなお母さんが顔を出した。髪はやや白くなっているが長くて艶やかで、着ている服も品があり、とても素敵なお母さんだ。

「あなたが遥さんね?いらっしゃい」

「あの、弓弦さんとお付き合いしています品田遥と申します!今日はよろしくお願いします」

「そんなに固くならなくていいよ、遥」

そう言って、彼は私の手を取った。

「!?」

「ほら、あがって」

声も態度も急に優しくなって、山神さんの予想以上の変わりように思わずドキドキしてしまう。
(こ…この人、こんなに演技上手いの…!?ほ、本当に彼女になったみたいな…)
どぎまぎする私をよそに、山神さんは涼しげな顔で私を家に招き入れた。

「そうよ、遥さん。私は弓弦と違って怖くないから、気楽にしてちょうだい」

「母さん、それどういう意味?」

「言葉通りの意味よ。あなた昔っから、近所の子たちに無表情で怖いって言われてたじゃない」

「そんな昔の話…。俺だってもう何年も社会人やってんだ、愛想笑いぐらいは覚えたぞ」

「まぁ、どうだか。ちゃんとニコニコ笑って仕事できてるか、その辺も遥さんに教えてもらわないとね。さ、奥へ入って」

そんなやりとりをしながら、私は家の中へと案内された。