それから私たちは、デートのエピソードの一つ二つを、どこかの恋愛小説やドラマで見聞きしたことがあるようなものを引っ張ってきたり、互いの趣味や仕事内容を説明したりと入念に打ち合わせをした。

それと、山神さんのお父さんは単身赴任中で食事会にも呼ばないつもりだと言うので、ターゲットをお母さんに絞って、性格や好みを集中的に聞いた。

彼は相変わらずほとんどの時間無表情だったけれど、時折笑ったり、「それはないだろう」と眉間にしわを寄せたり、これまで見たことのない表情も見せるようになっていた。
鳩時計は二度ほど鳴って、コーヒーも2杯目を注文した。山神さんのアドバイスを受けて、2杯目のコーヒーはモカブレンドにした。

そうして時間を過ごすうち、窓の外から差し込む光は、店内のレトロな豆電球のように弱々しいオレンジ色のものになっていった。

…ずいぶん長い時間話していたけれど、あっという間だった。

非日常的な会話をしているせいか、それとも。

(山神さんと話をするのが楽しいのかな…)


たっぷり打ち合わせた後、夕日でオレンジ色に染まった外に出て、私たちは別れた。

前回は店を出たとたん太陽の光がまぶしくて、途端に現実に引き戻される感じがしたけれど…今日はこんなにも世界がオレンジに染まっているからだろうか、まだあのレトロで不思議な世界にいるような、ふわふわした感覚が抜けない。

(レンタル彼女本番が、待ち遠しいな…)

最初はちょっと不安もあったけれど、気が付けば、当日が楽しみになっていた。