【第3章】
高校生の時、僕は軽音部に入っていた。いや、入らされていた。

中学から仲の良かった男友達に「これならお前もできる!!!」と見学に連れていかれた。挙げ句の果てには「テストの名前のとこ空白だった」とか言われ、半ば強制の形で、入部届けにサインさせられたのである。(今考えたら、意味がわからない間違いだが。)

そんなこんなで、僕は部活(=全青春)をそいつとその後加わる2人の男友達とで過ごすことになった。

毎日活動があるわけでもなかったし、学年ごとにグループを組んでいたので、先輩に怒られるなんて経験もないままで毎日なんとなく過ごした。

入部して半年経った、夏休み明けの木曜日の放課後。
僕は1人廊下を歩き、部室に向かっていた。(CDのデモをわ捨てたか何かだったと思う。)

その時、聞こえてきた歌声とギター。初めて聞いたものだった。

なんて言えばいいのかわからない。今にも泣きそうな声。歌。静かな曲想にぶつけられた大きな感情。歌詞はどうしようもない悲しみにくれた少女をストーリーで表した感じだったと思う。

綺麗だと思った。

気がつくと僕は廊下で一曲を聞き終わっていた。誰だろう。部活以外の人だったらどうしよう。

すこし不安に思いながらも、僕はドアを少し開け、いった。

「誰ですか…?」

「あっ…」
歌の主は少し戸惑った後に、照れ笑いの混ざった声で、
「私だよ、私」
と答えた。

歌の持ち主は三年生の軽音部の先輩だった。リードギターの人だった。すごくギターが上手くて、明るくて人気の先輩だ。

「…先輩。歌も上手なんですね」
口下手な僕だが、この時ばかりはするすると素直な気持ちが前に出た。

「え?そーかなぁ?」
ふふふっと笑う先輩にそうなんですよと答える。
先輩がギターを持つ左手の方の横に移動して、
「この歌先輩が作ったんですか?」となんとなしに聞いてみる。

「あっ、忘れ物でもしたの?」

「あ、そうなんです。実は昨日焼いたCDデモなんですけど…」

「あっ!もしかしてこれかな??アンプの上に置いてあった…「あっ!!それです!」

「よかったねぇ。失くしてなくて。はい、どーぞ。」先輩の手が僕の手を持ち上げ、その上にCDを置く。

「…あの、また聞きにきてもいいですか?」

すこし沈黙がつづいたので僕は慌てて、
「帰りますね!」と続け、ドアを開けた。

「…いい」

「えっ?」僕は聞き返す。

「いいよ!来ても!そのかわり、みんなには秘密ね?」

こうして、僕と先輩の不思議な木曜日は始まったのだった。