【第2章】
まるで準備されてたかのように、早く出てきたコーヒーは湯気と鼻を燻らせる香りをふわふわと漂わせている。

カバンから本を取り出し、しおりの挟んだページを開く。たった200ページの小説。内容は淡々と進んでいく、不思議な時計屋のお話。難しくもなく、かといって児童書な訳でもない。一年前から読み始めた本だが、しおりの位置は30ページ目あたりだ。

読み始めて30分経過したあたりで、先ほどの店員がサンドイッチを運んでくる。

「…どうも」

軽く会釈すると、店員がページが進まない本を見ながら、じろりと疑いの目を向けてくる。着実に「本は読み進んでいる」の意と、「失礼だな…ぼくも君と同い年くらいだよ」の意を込めて、ここはすこし口角を上げてやり過ごす。

店員が帰っていく方へ目をふと向けると、1人の女の人が僕の方へ顔を向ける形で座っていた。

こげ茶の肩まで伸びた髪はすこしカールを帯びていて、程よく大人の女の人を演出している。が、対照的にスラリと伸びる長いまつ毛や俯いている目からは可愛らしい印象がうかがえた。

一瞬。

ほんの一瞬僕はその女の人に目を奪われた。と同時に、なぜか懐かしい日々を思い出したのだった。