「あ、そうだった。
おばあちゃま、お風呂も凛太朗と入るって約束したんだ」
星矢君は凛様の足元にじゃれつきながらそう言った。
「そうなのね、残念…
じゃ、凛太朗、星矢をよろしくね。
そしたら、麻里さん、行きましょうか」
会長は私にも一緒に部屋を出るよう促した。
私は、はいと小さな声で返事をする。
凛様はドアにもたれたまま、そんな私を目を細めて見ている。
目を細めている時の凛様は、あまり機嫌がよくない。
きっと、会長に従順すぎる私に腹を立てている。
「じゃ、星矢、お休みなさい」
私も会長の後に、おやすみなさいと続けて言った。
会長が私の背中に手を当てて部屋から出ようとした時、凛様が大きな声で星矢君に話しかける。
「星矢、今日は英語での発表会はしたのか?
毎日の日課のやつ」
星矢君は凛様に抱っこをせがみながら、首を横に振った。
「まだやってない。
おばあちゃまが来たから、途中で止めたんだ」
凛様は星矢君を軽々と持ち上げて、愛おしそうに抱っこする。
「という事だから。
麻里先生、ちゃんと英語で会話してあげて。
母さんは行っていいよ。
じゃあね」
私は会長の顔を見るのが怖かった。
いつも温厚な会長が怒ってたりしていたら、凹んでしまう。
「そうなの? ごめんなさいね。
じゃ、麻里先生、続きをお願いします」
私はまた小さな声ではいと返事をした。
この張りつめた空気感にめまいがする。
でも、星矢君と凛様は、嬉しそうに私を見ていた。



