シンデレラは騙されない



「凛様、早く、星矢君のところへ行ってあげてください。
多分、リビングでずっと隠れて待っているはずだから」

凛様の目がどんどん細くなる。
私の演技を見透かしているのか、何も言わずにただジッと私を見ている。

私は居心地の悪さと手持無沙汰に、食べ終わった食器を重ね始めた。
すると、凛様は目の前に座る私の右手を掴んだ。

「何で俺を避ける?」

「避けてなんかないです!」

私はそう言って、凛様の手を解いた。

「避けてなんかないです…」

凛様は解かれた私の手を、もう一度きつく握り直す。

「だったら、ちゃんと俺の顔を見て…」

私は心の中で大きく深呼吸をした。
負けちゃダメと、弱い心を元気づけるために。
私が真っ直ぐに凛様の顔を見ると、凛様はホッとしたように笑った。
左の口元のえくぼが、何だか私の涙を誘うけど…

「俺の話を聞いてほしい。
すぐに終わるから…」

凛様はおどおどしている私の動きを制するようにそう言った。