清水さんがいなくなると、凛様は切なそうに笑い、そして私の目の前に腰掛けた。
「……会いたかった」
下を向いていた私はゆっくりと顔を上げる。
黒髪になって眼鏡をかけた凛様は別人に見えるけど、でも、眼鏡の奥に見える奥二重の優しい瞳はそのまま何も変わらない。
こんなに惹かれてやまない凛様に、私は違う人格を演じる事に決める。
「凛様、お帰りなさい…
私… 私も、会いたかったです…
でも、それは、星矢君が凛様の事ばっかり言って寂しそうだったから。
凛様が帰ってきてくれて本当にホッとしました」
私は感情を押し殺し、当たり障りのない笑顔で凛様を見る。
自分で引いた境界線を何度も確かめながら。
凛様は、そんなよそよそしい私をテーブルに片肘ついてジッと見ている。
まるで、私の魂胆は分かっているみたいに。
でも、私だって負けるわけにはいかない。



