凛様はスーツの上着を脱いで、シャツの上のボタンも二個ほど外していた。
私の後ろでもぞもぞ動く星矢君に気付いて、凛様は私に意味ありげに目で合図をする。
私が前に椅子を引いて星矢君に逃げるスペースを与えると、星矢君はキャッキャ言いながらまたリビングへと走って行った。
「凛様、お帰りなさい。
それより、どうした事でしょう。
そのイメチェンはただの気まぐれですか?」
清水さんは目を細めながら、凛様にそう聞いた。
凛様は清水さんにとびっきりの少年のような笑顔を見せて、すました顔をこう言った。
「俺の大切なナニーの清水さんだけに教えてあげるよ。
愛する人ができたんだ。
俺はその人のために生きる事にした。
まずは働く事から始める。
働かなきゃ、その人が俺の事好きになってくれないからさ」
清水さんは、きっと分かっている。
あの夜に、シャンパンを持たせたのはきっと清水さん。
私が下を向いていると、清水さんが小さな声でこう囁いた。
「私はいつでも凛様を応援しますよ。
凛様が幸せになってくれるのが、私の願いですから」



