凛様は抱きしめている私の耳元で静かにこう囁いた。

「バンドマンの方が俺の仮面だとしたら?」

私がポカンと考えていると、凛様は意地悪そうな笑みを浮かべ、私にまた軽くキスをした。

「俺の心を一人占めにした麻里に、これからは俺の事をどんどん知ってもらう。

麻里が望めば、王子様にだってなれるよ。

だって、俺は、本物の王子様なんだから」

そんな訳の分からない事を呟いて、凛様はもう一度私にキスをする。
凛様のキスの味はシャンパンの味。
そして、甘い甘い蜜の味。
夢の世界と思いつつ、私は凛様の愛の渦に身を任せる。

「凛様…
凛様が王子様なのは間違いなくて…
でも、私は、王子様には見合わないただの使用人です…

だから、ごめんなさい…」

最高級の甘い夜を、私はこんな言葉で台無しにした。
でも、それは、明らかに本当の事。
凛様に心底溺れる前に、自分にブレーキをかけたかっただけ。



そんな意味深な夜を最後に、凛様は姿を消した。