凛様は私の事を一体何だと思っているのだろう…
友達? 同じ高校の後輩? それとも恋人?
凛様の思わせぶりな甘い言葉にいつも翻弄されてしまう。
私は乾杯したシャンパングラスを口も付けずにテーブルに置いた。
「お酒、嫌いだった?」
凛様は私の様子を見てそんな風に声をかける。
「今日はやめときます…」
私が隣に座る凛様にやっと聞こえるような小さな声でそう囁くと、凛様は私の顔を覗きこむ。
「敬語は止めよう。
俺は別に麻里の雇い主じゃないし、ご主人様でも何でもないから」
私は小さくため息をついた。
凛様は私と再会したと思っているのかもしれないけれど、私は凛様の事を何も覚えていないし何も知らない。
気軽にそんな風に言われても、そうですねなんて簡単に頷けない。
「凛様は……
普段はどこに住んでるんですか?」
私は話をそらす事にした。
完璧なお金持ちの人は、自分をお金持ちだと認識していない。
雇い主の意味もご主人様の呼び名も、聞き慣れたいつもの単語。
そして、今夜の私は、その事について討論する情熱も気力も持ち合わせていなかった。



