私を見つめる真っ直ぐな視線が懐かしくてたまらない。
コートの襟を立てて、首をすくめて、優しくため息をつく仕草が、鎖で鍵をかけた私の心の扉を一瞬で開いた。
「…麻里、元気だったか?」
私は涙を止めるために、空を仰いだ。
凛様の切ない笑顔に甘えちゃダメ…
あなたは凛様を裏切ったんだから、そんな会いたかったみたいな顔をしちゃダメ…
「り、凛様…
ごめんなさい…
私…」
本当は違う言葉を言いたかったのに、お久しぶりとかこんばんはとか動揺している心を隠したかったのに、でも、やっぱり私の心はこの言葉を伝えたかった。
…ごめんなさい、ごめんなさい、凛様、ごめんなさい。
凛様は人でごった返している駅の中から、私の手を掴んで外へ連れ出した。
何も言わずに、バスのロータリーを抜けひたすら歩き続ける。
駅から離れたらすぐに田舎になるこの街を凛様はよく知っているのか、小さな道に入った途端、私の肩を抱き寄せる。
「もう少し先の駐車場に車を停めてあるから」
凛様はそう言って、私のかじかむ手を自分のコートのポケットに入れる。



