専務はちょっとホッとしたように、目を細める。
きっと、それは自分が言うべき仕事だったと思っていたみたいに。
「星矢の家庭教師のお給料は、契約期間の来年の三月分までまとめて払わせてもらう。
麻里ちゃんの口座に、明日には振り込まれる」
私は首を振った。
「そんなのダメです。
途中で逃げ出すのは私なのに、私が皆様に迷惑をかけてしまったのに…
そんな…」
専務の両手は、私の右手を優しく包み込んだ。
「それでも足りないくらいだよ。
それは僕だけの意向じゃない、この家にいる全員の思いだから」
そして、専務の顔が一段と険しくなった。
言いたくない事を言わなければいけない苦しみが、私の中へ伝わってくる。
「あと、もう一つ…
今の会社での仕事なんだけど…」
私は心臓が止まりそうになる。
そっか… 凛様のいる同じビルで、働いちゃいけない…
「今の職場は、明日付けで退職にする。
でも、麻里ちゃんには、僕の実家の方の会社にまた新しく入ってもらいたい。
もう、その話はついていて、麻里ちゃんさえよければ、明日付けで採用したいと思ってる」



