すると、会長も綾さんも静かに頷いた。
専務は私に目配せして、行こうと手を差し伸べる。
私は気丈に立ち上がった。
こんな事があっても、会長も綾さんも嫌いにはなれない。
嫌いになれないどころか、悲しい位に大好きだった。
「本当に申し訳ありませんでした…
そして…
今まで、お世話になりました。
このご恩は一生忘れません…」
どのみち、星矢君の受験が終わったら、この仕事は終わりにしようと思っていた。
だから、何も悲しむ必要はない。
だけど、何でこんなに悲しいの…
私は自分の感情は押し殺して、会長達に深々と頭を下げた。
もうお会いする事はないでしょうと、心の中で囁きながら…
他の部屋へ移動した後、私は放心状態で涙だけが止まらない。
そんな私が落ち着くまで、専務は静かに待ってくれた。
「……凛太朗君は、罪な奴だな。
こうなる事は、簡単に想像できたはずなのに」
そう言う専務の言葉に、悪気は感じられない。
きっと、私の事を想って出た言葉だと思うから。
「専務…
私は大丈夫です…
今夜、ここから出て行きます。
凛様にも一切連絡もしません。
だから、安心してください…」



