好きなのに何でそんなに苦しい方へ進んで行くの?
凛様と逃げ出せばいいじゃない?
斉木家の人達の幸せを奪いたくない。
ありふれた日常が崩れ去る苦しみを、私は身をもって知っているから。
父親の色恋沙汰で、当たり前でささやかな私達家族の幸せはあっという間に消えてなくなった。
その時の私のトラウマは、情熱的な恋愛を否定する。
凛様の事は大好きだけど、凛様の現状をそして自分の逃げ場を守ってしまう臆病な私がいる。
何もかも壊してまで、私は恋をする勇気を持ち合わせていない。
最低な自分…
こんな私を、凛様、どうか捨ててください…
私は清水さんと遅い夕食を取った。
清水さんはどこまで知っているのだろう…
私を見る瞳が濡れて見えるから。
「麻里ちゃん、凛様のために心の鍵を開けておいてね…」
私は目に大粒の涙を溜めて清水さんを見た。
「凛様はもう自分の心の鍵を麻里ちゃんに預けちゃったの。
その鍵の使い道は麻里ちゃん次第…
でも、もし、返そうと思ってるのなら、それはそれでしょうがない事。
誰も責めちゃダメ…
縁がなかっただけだから…」
清水さんは優しい顔をしている。
凛様のもう一人の母親として、凛様の幸せを願わないわけはない。
でも、静かに見守るだけ…
若い男女によくある恋物語は一体どんな結末を迎えるのか、ナニーの清水さんだって知る由もなかった。



