シンデレラは騙されない



「はい、どちら様ですか?」

聞き慣れない声に、私の心臓はバクバク暴れ出す。

「あ、私は、今日から住込みで働かせていただく麻木麻里といいます。
今朝の十時にここへ来るよう言われて、今、到着しました」

到着しました? 自分の小学生のような応答にちょっと凹んでしまう。
何だか今になって、さっきのミュージシャンの言っていた悪魔の館という例えが、私の心臓を更にバクバクさせた。

「どうぞ。
道なりに真っ直ぐに歩いて来てください。
正面に見える家が母屋になりますので、そちらに着いたらまたインターホンを押して下さいませ」

「あ、はい…」

すると、頑丈な深緑色の門扉が開き始めた。
私は門の先に見える景色に、また唖然とする。

L字型に建っている白亜の豪邸は、道の方から見えていた建物はほんのわずかな部分。
奥行きの深さに驚いた。

門の先の景色は、おとぎ話に出てくる森みたい…
大木から伸びているたくさんの枝は緑の天井を作り、その緑のすき間からこぼれ落ちる光は、小道の脇に咲いている色とりどりの花達を優しく照らしている。