シンデレラは騙されない



ここが…?

私はその豪邸の門の前でしばらく動けなかった。
道すがら目を奪うほどの立派な家を何軒も見てきた。
両親が離婚する前に住んでいた家は広かったけれどマンションだったし、今なんて3LKの団地住まい。

この辺りでもひと際目を引く白亜の豪邸にただため息しか出ない。

あれ?
私がボウっとしている間に、さっきの男の人の姿が見えない。

私はキョロキョロと探したが、でも、約束の時間が迫っている。
最後にもう一度周りを見回して、小さく息を吐いた。

……近所に住んでいる人みたいだから、またどこかで会えるかな。

私はもう一度大きく息を吐く。
この門をくぐれば、これからの一年、私の自由な時間はほとんどなくなる。

三月の半ばの今の季節、桜が咲くにはまだ早いけれど、一年後の今日、弟の頑張りに桜の便りが来ている事を願いながら、私は勇気を出して斉木会長の家のインターホンを押した。

ブーーッ。

私は一回目を閉じて、そして大きく目を開ける。
そこに見える門扉は幸せへと続いている。
そう信じて、私はとびっきりの笑顔でインターホンへ顔を向けた。