シンデレラは騙されない


丸型の黄色いサングラスをかけた顔が、私の顔に近づいてくる。

「俺はどっかで会ったような気がするんだけど」

その男はそう言いながら、サングラスを外して胸ポケットに入れた。
そして、もう一度、私の顔を覗きこむ。

今度は私が茫然と立ち尽くしてしまった。
サングラスを外したその顔は、私の勤める会社の会長にそっくりだったから。

……もしや、もしや、26歳の息子さん??

そんな私を置いて、その男はまた歩き出す。

「時間ないんだろ? ほら、行くぞ」

何だかわけが分からない。
会長の息子がこんなミュージシャンだなんてあり得ないはずだし、それにこの人の顔もたまたま会長に似た顔なのかもしれないし、だけど、会長似のそのお顔はかなりのイケメンで、風貌とのギャップに私の心は違った意味でドキドキしている。

「あの家は悪魔の館って知ってる?」

「さ、斉木峰子さんの家ですか?」

その男は意地悪な笑みを浮かべて頷いた。

「噂では、古いお屋敷だから、変なものがでるらしい。
気を付けて」

そんな恐ろしい事を聞いた直後、その男は立ち止まった。

「到着。
ここが斉木峰子の家」