ギンサギが微笑みトンッと弥剣の背を押した。弥剣は、紹介されたその少女が余りにも綺麗だったので、見とれていて思わず前につんのめった。
「大丈夫? 私、さくらって言うの。よろしくね」
 クスクス笑いながら桜は弥剣に手を差し出した。ふうわり、季節外れの花の香り。弥剣はいい香りがするなぁと思いつつ、差し出された手を遠慮がちに取った。
「こちらこそ…宜しく」
 桜と弥剣が互いに挨拶を交わすのを微笑ましげに見ていたギンサギと榊は、二人に少し下がって居るように言い、その前に桜と弥剣を代わる代わる抱きしめた。
「…父上、この子が長い間待っていた“語り部”ですね?」
-…そうだ-
榊は満足そうにその答えを“空”から受けると視線をギンサギに戻して微笑んだ。それに答えてギンサギは笑う。
弥剣は榊の言いようにきょとんとしたまま首を傾げた。そしてようやく、最初の疑問が頭をもたげてくる。
(…何で俺がここにいるんだろう…)
「それは、私達が貴方を必要としたからだわ。貴方は、我々に選ばれたのよ」
考えただけなのに、あっさり答えが返って来た。驚いて振り向くと早夜が笑んで立っていた。