少年はその少女に連れられて嫁入り行列の仲間入りをし、ずっとついていった。
 回りはすでに森の中である。道順なんてもうとっくに判らなくなっていた。
「…お前…名前なんて言うんだ?」
 少年と並んで歩くその少女にそういった。
「俺、“弥剣”と書いて“みつるぎ”って言うんだ」
 少女が振り返ったと同時に指で掌に文字を辿ってみせた。
「…“早夜”よ。」
 少女は少し戸惑った様子を見せた後、にっこり笑ってそういった。
「早い夜。私の一番上の姉様が付けて下さったの。夜の訪れが早く来る様に、また夜が早く明ける様にって願いを込めてね」
「ふう~ん」
先頭は相変わらず賑やかである。
気のせいだろうか、弥剣が行列に加わった途端、今まで無表情だった花嫁のお付きの人達に笑顔がチラホラ見えた。
先程までの重い沈黙が嘘の様。
花嫁も、何故か初めて見た時より幾分か、柔らかい笑顔を向けていた。
…弥剣はそれが不思議だった。
答えを知っているだろうと思われる少女“早夜”は楽しげに皆の後に着いて歩きながら弥剣の手を引っ張って行く。
しばらく歩いていく内に、急に眼前が開けてぽっかりと空が見える場所にたどり着いた。