「お兄ちゃん、お出でよ」
「な…なんじゃ?!」
立ち尽くしていた少年の手をクイッと引っ張る小さな手があった。
突然だったのでびっくりし、思わず身をのけ反らせたが拍子に地蔵堂の柱で頭を打つ。
「いてててっ! お~っ、いてかったっ」
「三原の天神様に嫁ぐギンサギ姉様がお兄ちゃんを呼んどるとよ」
「えっ?」
少年は涙を目尻に宿しつつ痛む頭をさすりながら、行列の方へ瞳を向けた。
すると、今まで自分を無視して歩いていたその行列が、いつの間にかピタリと止まっていて、あろうことか人々の視線が全て自分に注がれて居るのを知る。
「な…なんじゃと?! 何するとや?」
「そげん邪険にする事なかろ? お兄ちゃんはギンサギ姉様に指名されたんやぞ?」
「…はああ?」
 少年より二、三歳年下の少女が可愛らしい声でそう言うと、全然状況を把握しきれていない少年の腕をクイクイッと再度引っ張った。
「うちらについてきいや。普段では見れない光景が見れるよ」
「…う~ん」
少年は暫く困った様な表情をして空を見たが、まだ太陽は昼前をさしている。
少年が遊びに出たのは朝早い頃合いで、家に帰ろうとしたのもただ単に“雨が降ってきた”からであった。
…一応特にこれといった用事が少年には存在しない。
「…ちゃんと、送ってくれるんやろうな?」
 少女は笑うと元気良く頷いた。
「もちろん!」
少年は、少女の差し出した手を改めて握った。