ピーヒャララ”
祭り囃子の様な音が響いてきた。
“シャンシャンシャン…”
沢山の鈴の音も聞こえてくる。
少年は、田んぼの一本道の脇の地蔵堂で、ぼんやり雨宿りをしていた。別にそう激しい雨ではなく、このまま家に向かっても差し支えが無いほどの小振りの雨だ。
“ダダダダダ───ッ”
と、降ったり、急にピタリと止んだり…とても曖昧な雨である。
こういう時は、決まって空は青いのだ。陽の光も一杯で暗くなる事は無い。
少年は、ずっとその雨を見ていた。
(何処から降るのだろう?黒い雨雲も雷様も無いのに…)
どれだけそうやって、その雨に見とれていたのだろうか判らないが、我に返ったのは、久しぶりに聞く鈴の音と、祭り囃子の笛の音…そしてお祭り騒ぎにはとても不似合いな嫁入り行列が目の前を通ってからである。
流石にそれには驚いた。
何故なら少年が住んでいるこの一帯は“村”と呼んでも可笑しくない程の人口で、しかも誰かが嫁ぐのであれば村の誰かの話題に登る程の隣人に親密さがあったのだ。
少年の目の前を通るこの花嫁行列は、その手の噂を誰からも聞いた覚えが無かったので、思わず目を見張った。
その行列が近付いて来るにしたがって、少年の目は奇妙に眇められる。
理由は、どうみても嫁入り行列とはかけ離れた人達…色々なお面や奇妙な恰好をした人達が楽しげな様子で踊り歩いて来るのだ。それに、その行列は少年が一人こうやって立ち尽くして居るのに、少年がまるで目に入っていない様な白々しさで目の前を通り過ぎていく。
その行列の中心である純白の花嫁衣装を纏ったとても美しい女は、先程から聞こえている鈴をいっぱいつけた馬の背に横座りの恰好で座っていた。
黒々とした睫毛に縁取られた瞳は物憂げに伏せている。
花嫁らしきその女のお付きの人達は、紋付きの着物を纏っていた。不思議な事にその者達は押し黙った様に言葉を発する事無く、先頭を歩いていく楽しげな人達と対照的にとても無表情で無口だった。
花嫁が跨がる馬の手綱の赤や白の布が眩しい。
少年は、瞳を見開いたまま、ただ唖然とした様子で、その奇妙な花嫁行列を見送っていた。…と、