キイッ…キイッ
ゆりかごの様に椅子が揺れる。
「おじいちゃん、おじいちゃん」
ほのほのとした日差しの柔らかい春のある日、孫のトニーが家出をしてきた。
トニーからすればこの老人は、今はすでに他界している母親の父にあたる。
もっとも、トニーの父は母“早苗”のいなくなったその寂しさに耐えきれず、そうそうに別な人と結婚をしてしまっていた。
トニーはその当時十歳であったが、新たに自分の母となったその女性を素直に受入れ、今まで素直に共に生活してきた。
しかし、新しく母親になったその女性と自分の父との間に子供が出来た頃、トニーは“独立宣言”を二人にして、長年慣れ親しんで来たわが家を飛び出してきたのだったりする。
「…おや、来てたのか。どうした?」
老人はしょぼしょぼした目を擦り、ようやくトニーの存在を認めるとほわりと笑ってトニーの頭に手を置いた。
「うん!ミツルギおじいちゃんのお話が聞きたくて、おじいちゃんの所に来たんだ」
ミツルギ老人はその言葉を聞くと、嬉しそうに笑った。老人の笑顔に乗じて、老人の家の回りを取り囲む山の森の木々が一斉に笑った様な気がした。