「これ、同棲してた元カノが間違えてうちの住所に送ったんだきっと。」
目の前に意地悪な顔をした悪魔がいる。


気の抜けたチャイムの音で起きるいつも通りの日常。昨日のまま下着すらつけてないあたしに変わって玄関に向かった彼氏だけが今の全てだとおもう。

「あれ?俺なんか注文したっけ?」

小さな箱をあけながら取り出したのはピンクの箱だった。
女の子に大人気のブランドのリボンのロゴがみえて、あたしの動悸ははやくなる。蓮くんもわかっている。これはあたしが大嫌いなブランドだ。

情報量が多すぎて時が止まったあたしの顔をみながら目の前の世界一大好きな悪魔がニコニコしている。

「これ、同棲してた元カノが間違えてうちの住所に送ったんだきっと。」

だからどうしたというんだろう。この人はあたしが怒り出すポイントを知っている。

半年経った今、元カノに不意打ちに刺された気がした。


あたしはそこらへんの人に比べたらまともな顔、というかかわいい方だとおもう。
しかし性格がとてもよくないと自負してる。

たった今も元カノがわざと送ってきたんではないか?と意地悪な方に考えてしまう。
そんな自分が苦しくなるときもある。

でもあなたの彼女を務めるにはこれくらい強くなくてはならなかったの。

「あたしが送っておくよ」

笑顔でいい女を演じてみたけれど、伝票に女の子のかわいい字で宛先をかきたかった。そしてあなたの名前をかきたかったの。

あたしの作戦に気づかないまま目の前の天使は鈍感に笑う。

いつも通りの日常。
日々の儚さに胸が苦しくなる。

「ねえリコ、愛してるよ」
背中を向けて再びベッドに寝転ぶあたしに抱きついてくる。世界一大好きな指が唇に触れる。少しタバコの匂いが残る指先をとても愛おしくおもう。やっぱりこの人は、あたしのことをよくわかっているとおもう。


とあるバンドマンと、
それに生かされたニート彼女。

孤独と幸福。

昼の光。