当の父は入院案内を読もうとして机に広げたけれど
『頭に入らない』と言って書類をしまいこんだ。
珍しい事もあるものだ。
役所関係の申請書類など、わからない事は何度でも足を運び、漏れのない書類を書いてきた父。
その父が、書類を投げ出した。
「入院の日までに書いときゃいんだから、いんだ」
父が好きなクロスワードパズルを勧める。
でもすぐに、窓を開けてタバコを吸い、
全く読み進まない新聞紙に目を落としていた。
何も頭に入らない様子の父。
【癌】の言葉を聞かないふりしただけだろうか?
「切れば治るんですよね?」
あの時、身を乗り出して聞いた先生への問掛けは、父自身への問掛けか?


