夜勤明けのナースたちから申し送りを受けた早番勤務の美鈴は、明け方運ばれてきた救命患者のオペに入っていた。近くの首都高で起きた多重事故のニュースを今朝見たとき、明け方の救急車はこれだったのかと大方美鈴は予想していた。寮にいると通勤の楽さはかなりのメリットだが、救命センターに運ばれてくる救急車のサイレンがすぐ側で聞こえるのは、新人の頃かなりデメリットだった。それでも一年経つ頃には、ほとんど気にならなくなったが、聞こえなくなる訳ではない。
オペは三部屋で同時進行していた。七番ルームでは父親、八番ルームでは母親。そして九番ルームではまだ七歳の息子のオペが行われていた。執刀は救命医が担当している。器械だしはドクターがしてくれているので、美鈴は各部屋を行ったり来たりして、外回りを担当した。輸血に保温、記録に出血量の測定、無影灯の調節。やることは盛り沢山だった。母親と息子のオペはほとんど同時に終わり器械カウントをしていると、日勤帯の仲間たちが出勤してきて手伝いに入ってくれた。一気に美鈴の気持ちは楽になった。
息子のストレッチャーを押していると、前から貴島が歩いてきた。