「ほんとに来たんだな。

どんだけ欲しいんだよ、あれが」


上から声を掛けられ、落としていた視線を上げる。


ラフな部屋着に着替えた木下さんが立っていた。


「着替えずにそのまま来るとか...」


「ご、ごめんなさい...。

そのままなんてやっぱり迷惑だったよね...」


やっぱり制服のままじゃない方が良かったかな。


迷惑そうに溜め息を吐かれる。


「着替えて来ます...」


「良い」


部屋へ戻ろうと背を向ければ、手を掴まれる。


「別に変じゃねぇし迷惑でもねぇよ。

行くぞ」


手を引かれ、引っ張られるようにして男子寮へ進んで行く。


「ほら、ここ」


1番端の部屋の前で立ち止まる。


「お邪魔します...」


初めて入る男の子の部屋に緊張して、挙動不審になってしまう。


「好きに座れよ」


好きに、と言われてテーブルの前で、ベッドの下にちょこんと座った。


「あんたさ、警戒心とかねぇの?」


「警戒しないとらなんですか?

あ、その資料!」


近くに座った木下さんの手には欲しかった資料が。


「借りても良いですか?」


と、近づく。


「......別に、良いけど」


「良かった!」


差し出してくれた資料に手を伸ばし、受け取ろうとすると、目の前から資料が消えたと同時に視界が反転した。


「え...?」


背中に当たる冷たく硬い感触、目の前には天井、そして息がかかる距離にある木下くんの顔。


「あんた、ほんと無防備過ぎ。

男の部屋に来る意味、分かってんの?

こういうことされても文句言えねぇよ」


企むように笑う木下さんから目が逸らせなくて、ふと視界から木下さんが消えたと思ったら。


唇に触れる、柔らかな何か。


「ななっ...!」


それが木下さんの唇だと分かるのに、時間は掛からなかった。