「 よしっ 」

おろしたての制服のリボンを付けて、鏡の前でくるんっと回る。

スカートの裾がふわりと揺れ、少し気分が上がった。

なんてったって、今日は高校の入学式。

中学の頃からずっと片想いしてきた入江先輩と同じ学校に行きたくて、頑張って勉強して受かったんだもん。

「 日向〜?準備は出来たの? 」

下のリビングからお母さんが呼ぶ。

「 蒼くんもう来てるわよ 」

お母さんの次の言葉で、気分が急降下する。

うええ、蒼も居るの?

蒼、というのは私の幼馴染である橋下蒼の事。

「 今行くよ 」

仕方なしに鞄を持ってリビングに行くと。

「 随分と遅いんじゃん、なにしてんの? 」

と言って人んちのソファーにふてぶてしく座る蒼が。

「 うるさいなぁ、なんでもいいでしょ 」

ニヤニヤと笑いながら私の事を見る。

「 お前・・・太った? 」

「 はぁ!? 誰がデブだとこら 」

ほんと、蒼っていつもこう。

私には意地悪な事しか言ってこない。

他の女の子にはニコニコしてる癖に!

その性格みんなの前で暴露してやろうか? おん??

握り拳を震わせながら蒼を睨む。

「 蒼ってホントデリカシーってもんが無いよね 」

「 そんなもんなくたって生きてけるしぃ〜 」

ヘラヘラと私の攻撃をも交わして尚も憎まれ口を叩く。

「 つーかスカート短くね?何意識してんの 」

「 こっ・・・これは、別に・・・蒼には、関係ないし 」

あ、分かった、とでも言いたげにニヤリと笑う。

「 あ、あれだな、入江颯汰とかいう先輩だな 」

ニヤニヤ笑ってくるから、余計にムカつく・・・!

「 蒼には関係ないって言ってるじゃん! 」

なんで、そんなに私の想いを馬鹿にするの?

「 ・・・俺にだって、関係あるし 」

ボソッと蒼の発した言葉の意味が分からなくて。

「 なに、どういう事? 」

「 別に?お前なんかにはそいつは高嶺の花だっつーの 」

このやろう・・・・・・

調子に乗りやがって・・・!!

静かに殺気が湧いてくるわっっっ

「 ふん、どーせ蒼には分かんないよ、入江先輩のいい所なんて 」

ムキになって言い返すと、今度は蒼もヒートアップして。

「 いーよ別に。分かんなくたって 」

「 ほんと、蒼って素直じゃないよね 」

「 もう、二人とも!早く行かないと遅れるわよ 」

ギャーギャー言い合っていると、お母さんがピシャリと言った。

渋々蒼と玄関を出て、最寄りの駅に向かう。

向かっている途中、なぜか蒼はずっと無言。

おまけになんかムスってしてるし、不機嫌オーラが満載。

「 何、蒼怒ってるの? 」

「 別に? 」

いつもの事だけど、やっぱり返事が素っ気ない。

「 ねぇ、何?なんでそんなに機嫌悪いの? 」

「 うるせーなぁ。別に悪くねーって 」

話しかけるな、とでも言いたげにぷいっと顔を背けられる。

なんなの。勝手に機嫌悪くなっちゃって。

蒼ってこういう所は子供っぽいよね。

気まずい空気が流れるまま、時間通りに来た電車に乗り込み、駅を後にした。