席に着いてすぐに田中くんと高橋くんが私のところに来てくれた。

「佐藤、久しぶりだな!」

「しばらく来てなかったけど、なにかあったの?」

「久しぶり!ううん、何にもないよ。あっ、休んでた理由は秘密だよ?」

会って早々挨拶を元気にしてくれる田中くん、私のことを心配してくれる高橋くん。
2人からは休んでる間も何度も連絡があった。
「大丈夫か?」とか「何かあったのか?」とかそんなこと。
そしてその連絡が来るたびに思う。
私は本当にいい友達を持ったなあって。
あれ……

「そういえば……」

「ん?どうかしたの?陽菜?」

「あっ、いや、そういえば今月の22日は期末テストだったなあって思って」

「そういえばそうだったな」

「…………」

無言の田中くんとさくら。
どんどん顔色が悪くなっていく2人。
どうしてそうなっているかは大方予想はつく。

「田中くん勉強苦手なんだ」

「鈴木さん勉強苦手なんだ」

私と高橋くんが同時に言った。
すると、さくらと田中くんは首を微かに縦に動かす。
まぁ、今のを見てなんとなく想像はついた。
そして、私と高橋くんは顔を合わせ、頷く。

「じゃあ、今日から勉強会始めるか」

「え!?」

「はあ!?」

「だって、ここで赤点取っちゃったら夏休みほぼ毎日補習になっちゃうよ?」

「それに、せっかくの夏休み、4人でどっか行きたいだろ?」

「行きたい!」

「行きてえ!」

「じゃあ頑張ろう」

「じゃあ頑張ろうよ」

さくらと田中くんが声を揃えて言うので、私と高橋くんも声を揃えて返すと、この世の終わりだみたいな顔をする2人。
そこで、チャイムが鳴ってしまったので朝のお話タイムは終了。
元気なさげに席に戻る二人を見て私たちは苦笑したのだった。





そして、放課後。
今日は、さくらの家で勉強会をすることになった。
今まさにさくらの家に向かっているところだった。

「鈴木んちってどんなんなんだ?」

「普通よ、普通。別にすごいものなんてないし」

「ふーん」

「聞いといてその反応は何よ!?」

そこで繰り広げられる2人の口論。
これも何となく、いつもの事だと思う。
一緒にいなかった日数。
その分距離が空いてしまったような気がした。

「ははっ、そういえば佐藤さん」

「ふふふっ、あ、何?高橋くん。」

そう言うとチラッと2人をみて、未だに口論してるのを確認してから

「鈴木さんってテストとかってどんなだったの?」

「うーんとね、結構……悪い」

「そうなんだ……」

「田中くんも…?」

「……うん」

そこで、多分、私と高橋くんは同じことを思ったと思う。
これは大変なことになる……と。





さくらの部屋は、所々に赤のラインが入った白い壁、白い床。
窓際に置いてあるベッドの近くに本棚があり、ドレッサーがあり、と女の子らしい部屋
その真ん中に机を持ってきて、私たちは勉強を始めた。

予想は当たっていた。
っていうか、なんて言うか、これは酷い。
とりあえず、一から復習をしてく。
これには高橋くんも焦ってた。
そんな中、私と高橋くんは自分の勉強もして、お互いわからないところを聞いたりして……。
なんとか今日の勉強会は終わった。

「それじゃあ、本当に忘れ物とかない?」

「しつけえな、ねえって」

「確認でしょ!?」

「ま、まぁまぁさくら落ち着いて」

「湊もあんま突っかかるなよな」

そう言うと、田中くんもさくらも黙り込む。
だが、なんとなく表情はムスッとしてる。

「陽菜、家まで送ろうか?大丈夫?」

「もー、大丈夫だよ?それに2人もいるし」

「なら、いいんだけど……」

「過保護かよ……」

「何?」

「湊、帰るぞ」

「そ、それじゃあ、さくら!また明日ね!」

「あ、うん!じゃあね!」

そう言って私たちは外に出た。
日はもうすっかり落ちて、空には一番星が輝いていた。
でもやはり1番目立ち、1番この夜を照らしているのは、月だろう。
そんな真っ暗闇の中で、民家の灯りは点いている。
だが、私の家の灯りは……ついていなかった。

「またか……」

「なんか言ったか?」

「ううん、何にもない!それじゃあ、私はここだから!また明日!」

「また明日」

「おう!」

2人見送って、家の鍵を開けながら、「ただいま〜」と言った。が、当然ながら返事はない。
カーテンを閉め家の灯りをつけ、食卓テーブルをチラリと見ると、メモ用紙が置いてあった。
どうせ内容はいつもと同じなんだろうなと苦笑しながらメモを見る。

【陽菜へ
お父さんとお母さんは今日も仕事で帰りが遅くなりそうです。
冷蔵庫に昨日のカレーがあります。
それを食べてください、何かあったらさくらちゃんのお家に行ってください。
母より】
やっぱり、いつもの書き置きだった。
そういえば、昨日もカレーだったっけ。
そんなことを考えながら、自室に戻り荷物を置いて制服を脱ぐ。

「ははっ」

口から出たのは乾いた笑い声。
こんなのいつもの事。小学生の頃から。
最初は私も、仕事が忙しいんだろうなって思ってた。
でも、違った。2人ともただ単にお互いの顔を見たくないだけ。
顔を見れば口喧嘩。
私のこともあって、前より酷くなっていた。
いつだって2人から言われる言葉は同じ。

『お前なんかいなければ離婚だってなんだって出来たのに!』

そう言ってから2人はいつも一言。ごめんと謝るのだ。
思ってないくせに。

「はぁ、お風呂入って寝よう」

2人が離婚できないのは私のせい。