最初は山積みになっておいてあった本も、もう全部読み終えてしまった私は、ついにやることがなくなった。
身体の痛みに耐えながら近くの車椅子を引き寄せて、乗る。
足が動かせないわけじゃないので、乗り降りは簡単。身体は痛むのだけれど……。
まだ2月。外は寒いだろうし、一応カーディガンを羽織り病院内を少し散歩してきますと書き置きし、病室を出た。
売店には子供や大人、高齢の方が居た。
私も行こうかと思ったけれど、車椅子では場所をとってしまうし、財布は病室に忘れてきてしまっていたので、辞める。
「行くとこないなぁ。」
病室に戻っても何も無いし……。
そこで私は思い出した、いつも窓から眺めていた庭。
あそこに行こう、けれどどこから行けば……。
「陽菜……?」
「あ、悠真くん!」
ちょうど悠真くんが病院に入ってきたところだった。
この頃にはお互い下の名前で呼び合っていた。
いつまでも苗字で呼び合うなんて変だろ、そう湊くんが言っていたからだ。
「え、ちょっ、大丈夫なのか?」
「うん!本読み終わっちゃったし、することないから出てきたの。 院内なら自由に行動していいって言われてるし」
「そっか、大丈夫ならいいんだけど……」
「あ、ねえ、悠真くん、中庭ってどこから行くの?」
「中庭?行きたいの?」
「うん、行ったことないから」
「わかった、じゃあ俺押すから一緒に行こう」
「うん、ありがとう!」
悠真くんと話している間に中庭はすぐそこだ。
ドアから外に出ると少し肌寒く感じる。
「うわぁ、寒い……」
「はい、これ」
「え、いいの?マフラーないと寒いでしょ?」
「カーディガン1枚の陽菜の方が寒そうだけど?」
「え、あ、うんそうだね、じゃあ借りるね、ありがとう」
まだマフラーには悠真くんの温もりが残ったままで暖かい。
肌を刺すような風が吹いていて痛い。
外にも子供がいた、男の子ばかりだけど。
元気に走り回ってるのを見て、つい微笑んでしまう。
「あ、悠真くん見て、綺麗な花だよ」
「本当だ。 近くまで行ってみようか」
そう言うとまた車椅子を押してくれる。
院内とは違って地面が少しガタガタだ。
そんな揺れでさえ少し心地よく感じてしまうのは何故だろう。
近くまで来るとより一層綺麗に見えたその花。
「本当に綺麗……なんて名前の花かな」
「クロッカス」
「え?」
「この花の名前だ」
「あ、花言葉なら知ってるよ。たしか、青春の喜び、切望、裏切らないで、あなたを待っています、だったかな」
「黄色のクロッカスには私を信じてって意味もあるんだ」
「へぇ、私を信じてってなんかいいね。 あ、花なら私はあれが好きだよ、ここには時期的にも咲いてないけどブライダルベールっていうの」
「ブライダルベール?」
「そう、花言葉は幸福とか鮮やかな人っていうの。 花言葉が好きでさ」
「素敵だね」
「うん」
もしかしたら、見納めになるかもしれない。
そう思って私は黄色いクロッカスを目に焼き付ける。
悠真くんのおかげでまたひとつ覚えられた。
少ししてからここは冷えるからと、病室に戻ることになった。
病室に戻ってからはまたいつものようにその日1日あったことを教えてもらった。
そしてまた時間が来て悠真くんは帰っていった。
身体の痛みに耐えながら近くの車椅子を引き寄せて、乗る。
足が動かせないわけじゃないので、乗り降りは簡単。身体は痛むのだけれど……。
まだ2月。外は寒いだろうし、一応カーディガンを羽織り病院内を少し散歩してきますと書き置きし、病室を出た。
売店には子供や大人、高齢の方が居た。
私も行こうかと思ったけれど、車椅子では場所をとってしまうし、財布は病室に忘れてきてしまっていたので、辞める。
「行くとこないなぁ。」
病室に戻っても何も無いし……。
そこで私は思い出した、いつも窓から眺めていた庭。
あそこに行こう、けれどどこから行けば……。
「陽菜……?」
「あ、悠真くん!」
ちょうど悠真くんが病院に入ってきたところだった。
この頃にはお互い下の名前で呼び合っていた。
いつまでも苗字で呼び合うなんて変だろ、そう湊くんが言っていたからだ。
「え、ちょっ、大丈夫なのか?」
「うん!本読み終わっちゃったし、することないから出てきたの。 院内なら自由に行動していいって言われてるし」
「そっか、大丈夫ならいいんだけど……」
「あ、ねえ、悠真くん、中庭ってどこから行くの?」
「中庭?行きたいの?」
「うん、行ったことないから」
「わかった、じゃあ俺押すから一緒に行こう」
「うん、ありがとう!」
悠真くんと話している間に中庭はすぐそこだ。
ドアから外に出ると少し肌寒く感じる。
「うわぁ、寒い……」
「はい、これ」
「え、いいの?マフラーないと寒いでしょ?」
「カーディガン1枚の陽菜の方が寒そうだけど?」
「え、あ、うんそうだね、じゃあ借りるね、ありがとう」
まだマフラーには悠真くんの温もりが残ったままで暖かい。
肌を刺すような風が吹いていて痛い。
外にも子供がいた、男の子ばかりだけど。
元気に走り回ってるのを見て、つい微笑んでしまう。
「あ、悠真くん見て、綺麗な花だよ」
「本当だ。 近くまで行ってみようか」
そう言うとまた車椅子を押してくれる。
院内とは違って地面が少しガタガタだ。
そんな揺れでさえ少し心地よく感じてしまうのは何故だろう。
近くまで来るとより一層綺麗に見えたその花。
「本当に綺麗……なんて名前の花かな」
「クロッカス」
「え?」
「この花の名前だ」
「あ、花言葉なら知ってるよ。たしか、青春の喜び、切望、裏切らないで、あなたを待っています、だったかな」
「黄色のクロッカスには私を信じてって意味もあるんだ」
「へぇ、私を信じてってなんかいいね。 あ、花なら私はあれが好きだよ、ここには時期的にも咲いてないけどブライダルベールっていうの」
「ブライダルベール?」
「そう、花言葉は幸福とか鮮やかな人っていうの。 花言葉が好きでさ」
「素敵だね」
「うん」
もしかしたら、見納めになるかもしれない。
そう思って私は黄色いクロッカスを目に焼き付ける。
悠真くんのおかげでまたひとつ覚えられた。
少ししてからここは冷えるからと、病室に戻ることになった。
病室に戻ってからはまたいつものようにその日1日あったことを教えてもらった。
そしてまた時間が来て悠真くんは帰っていった。