次に私が目を覚ました頃には、時計が午後3時を示していた。
お父さんやお母さんはまだ仕事だろうか、病室にはいない。
高橋くんはまだ来ていないのだろうか。
あぁ、やっぱり。
目が覚めても身体は痛いままだ。
気を紛らわすために本でも読もうか。
そう思ったが、ありすぎて何から読めばいいからわからない。

「どれ読もう……」

「これ、面白いと思うよ」

「え……」

後ろから伸びてきた手はとある1冊を持ち上げる。
その手の主は少し前に考えていた彼、高橋くんである。

「高橋くん! あれ、授業は…」

「今日は5時間で終わりなんだ、大丈夫そう?」

「あ、うん。 大きな問題はないって」

「そっか、良かった」

はい。と本を手渡される。
読んだことあるの?と問うと高橋くんは読んだことがないが妹さんが読書家でよくこの本を読んでいたのを見かけたらしい。

「高橋くん、あのね……えっと……」

「うん、焦らなくていい大丈夫」

彼の大丈夫には何かしらの力があると思う。
大丈夫と言われるだけで本当に大丈夫な気がしてくる。
彼だけにでも伝えておきたい。

「私、高校卒業まで生きてられないって。2年生にもなれない。 その前に死んじゃうの。」

「そっか……そう、なんだ……。」

困らせるのは分かっているけれど……。
支えてくれている彼には正直に話しておきたかった。

「それじゃあ!」

「え……」

明るい声を出して提案してきたこと。
それは小説にありがちで、よく聞くようなこと。
でも、何かするべきことがあるのはいいことかもしれない。

「わかった、考えておこうかな」

「おう!」





「やりたいことリストか……」

いざ何をしたいと聞かれると、よくわからない……。
それにもう私は退院なんて出来る訳ないし……。
みんなのことが分かればそれで……

「あ……」

次の日、また高橋くんがお見舞いに来てくれた。
だから私のやりたいことは、高橋くんから学校であったことや、さくらと田中くんの様子が聞ければいいということを告げた。
高橋くんはそんなことでいいのかと言ったが、それだけで私には十分なんだ。

「あ、あのさ……」

「ん?」

言いづらそうにする高橋くん。
彼がそんな風にするなんて珍しい。
そうやってするのはいつも私だったのに……。
一体どうしたのだろうか。

「あのさ……どうして自分なんだって思わないのか……?」

彼は聞きづらそうに、そう言った。
そして私は思ったのだ。
あぁ、なんだ。そんなことかと。
心の中で少し、ほんの少しだけ笑った。

「今はもう思ってないよ。 病気がわかって余命が僅かなのを知ったすぐ後はそうやって思ってたけどね。」

「そうなんだ…。」

「もったいないなって思ったの、いつまでもそんなこと考えるなんて。 せっかくまだ時間があるのに。そんなこと考えるくらいなら少しでも前を向いてた方がいいもんね。 どうして自分なんだってどんなに言ったって、嘆いたって変わらない。 誰かが私と変われるわけじゃない。 だったら、残りわずかな時間を精一杯生きよう。 そう思ったの。」

「そっか、そうだよな……。うん、馬鹿な事聞いた、ごめん」

「 別にいいよ!それより、今日あったこと、聞かせて?」

それからその日1日あったことを聞かせてもらった。
身体の痛みもその時だけ忘れられた。
高橋くんが帰ったあと、私はいつも通りの日課的なものをやる。
そして、本を読む。
ここに居ると規則的な生活に変わる。
あまりにもやることがないから困ることも多いけれど……。
昼間は院内を歩いたり、本を読んだり。
一日の半分は本を読んでいると思う。
そして午後から本を読みながら高橋くんが来るのを待つ。
何も変わらない生活。でも仕方がない。
その変わらぬ日々の中から楽しみを見つければいいだけの話。
それは私が唯一得意とすることである。





その次の日は、さくらと田中くんもお見舞いに来てくれた。
田中くんには1度電話で病気のことを伝えた。
そして病室に到着してすぐに田中くんになんで言わなかったんだと怒られた。
すごい剣幕で言ってくるものだから慌てて謝った。
今日の出来事報告会は4人でやった。
昨日も今日も楽しかった。

さて、今日も始めよう。