「驚いた……?」

「肺……がん………………」

「うん」

私の病気がわかったのは、高校進学前の春休みだった。
昔から体が弱かった私は周りの人に心配かけてばかりだった。
すぐ熱出すし、喘息の発作を起こす頻度も、貧血で倒れる回数も……。
どれもこれも、多かった。
私が小学生になるまでは、両親も仲が良かった。
でも、いつの間にか、両親の仲も悪くなっていった。
私が低学年の頃はお互い喋らなくなって、高学年になれば口喧嘩が始まっていた。
多分、私のせいだと思う……。
私の体が弱いから、きっとストレスになったんだと思う。
中学生になっても、私の体は良くなったりなんかしなかった。
さくらはいつも心配してくれてた。
それとは打って変わって両親は、家にいないことが増えた。
発作を起こした時は、さくらの家に駆け込んだ。
そして、中学3年、渇いた咳が出たり、胸の当たりが痛くなったり。
最初は風邪だと思ってた。
こんなことで両親に迷惑かけられないって思ってた。
でも、それはいつまで経っても治らなくて。
治るどころか酷くなっていった。
さくらやさくらの両親に病院に行ったほうがいいと言われて、渋々行ったのが、春休みのこと。
その時にはもう、手に負えないほどに癌が進行していた。

「ざっと、こんな感じかな……」

「じゃあ、もしかして……体育祭の時に学校に来なかったのも、夏休み最後の花火大会も、2学期の始業式に来なかったのもって……」

「入院してたの」

高橋くんはこの話を聞いて、どう思っただろうか。
病気の友人なんて、嫌だろうか、面倒だと思っただろうか。
高橋くんは……どう、思っただろうか……。

「なんで……」

やっぱり、嫌……なのだろうか。

「なんでそんな大事なこと今まで黙ってたんだよ!」

「え……」

「家族のこともだよ、そんな環境じゃ余計悪くなるだけだ。」

そんなことを言ってもらえるだなんて思わなかったから、だから、驚いた。
ものすごく、驚いた。

「遠慮なんてしなくていいんだよ、俺たち………友達だろ……?」

友達……。
こんな体だから、さくら以外にできるなんて思ってもいなかった。
なんて、嬉しい響きなのだろうか。

「もう、溜め込まなくていい……」

突然過ぎて、最初はわからなかった。
私今、抱きしめられてる。高橋くんに。
気づけば自分の頬が涙で濡れていた。
あぁ、だから、抱きしめてくれたのか…。

「もう、無理しなくていいんだよ…佐藤さん……」

その言葉に今まで溜めていたものが、爆発した。
声を上げて泣きじゃくった。
子供のように泣いた。
怖かった。 拒絶されるんじゃないかって。
もう、今までどおり話せなくなるのかもって。
そんなの嫌だって。
高橋くんは優しくて、暖かい。
その優しさに触れた私は……。

人生初めての恋に落ちた。

今は、この人の優しさに甘えよう。
大丈夫と、私の背中をさすってくれる。
苦しい、身体中が痛い。
病気のせいでどこもかしこも痛いのに……。
触れられている場所は、暖かくて、全然痛くないんだ。
どうしてかな……どうしてだろう…。





「家まで送ってもらっちゃってごめんね」

「ごめんじゃなくて、ありがとうがいいな、俺。」

「あ、うん……ありがとう」

「うん、それじゃ、また明日な」

「うん、また明日」

肩にのしかかっていた思いもの。
不安とかそういう気持ちがスっと無くなった。
無理はしなくていいと言われた。
辛いと感じたら言ってくれと、そう言われた。
少し気持ちが高鳴っていた。
けど、玄関の扉を開ければそんなもの、全部、かき消された。
また、怒鳴り声。 身体中が痛い。
聞きたくない。蹲りたいほど痛い。
私の中の気持ちが混ざりあってグチャグチャだ。
痛い痛い痛い痛い痛い。
聞きたくないなんて、言ってられない。
私はゆっくり、ゆっくり、リビングに向かって、そして扉を開けた。
2人とも私のことには気づいていない。
もう、嫌だ。痛い痛い痛い、苦しい。
息がうまくできない。
今出せるありったけの声で

「もうやめてよ!!!!」

そう叫んだ。
私の声を聞いて2人は驚いてこちらを見た。
私が次に言いたい言葉を紡ぐのを待ってくれている。

「私、こんな2人見たくない……私がいるから…?私のせいなの……? 私のせいで…………ごめん、なさ、い……」

遠くでお父さんとお母さんが呼んでいる。
私は仲のいい2人が大好きなの、だから喧嘩しないでって言いたかったのに……
あぁ、身体中が痛い……苦しい、よ……。