私たちの高校の文化祭は3日間。
1日目のあの日。 午後。 高橋くんと沢山のお店に回った。
2日目。今度は午前中にさくらと回った。
カフェやスイーツを扱っている学年、クラスに行ってきた。
そして3日目の今日は午前も午後もぶっ通しで私は接客を行った。
3日目が1番忙しかったのだ。
私はもう、2日間で全てのクラスに回ったので、昼食の時だけ休憩を貰えればと言った。
そして今、片付けも終盤になり、残す道具はダンボールを捨てに行くだけ。
でもこれは流石に1人ではいけない量である。
誰かに頼まなければ……。

「高橋くん、ダンボール捨てに行くの手伝ってもらっていいかな?」

「あ、うん。 わかった、行こう」

廊下に響く私たちの足音。
どのクラスも片付けを終え、ほとんどの生徒が下校している。
夕焼け。 窓から差し込むオレンジの光。
この静寂。 どちらとも喋らないこの時間がとてつもなく私は心地よいものだと思う。
もう夏の暑さを残すものはなく、木々も色を変え始め、暖かいというよりは少し肌寒い、そんな時期。
外に出れば、冷たい風が私たちを襲った。

「さむ……」

「だな〜、風が冷たい」

いつかの日に来たゴミ捨て場。
今日はひとりじゃない。

「ダンボールってこれで全部だったよね?」

「うん、そうだよ」

今日の色はオレンジと深い青。
何色っていうんだろうか、やっぱり私にはわからない。

「帰りたくないなぁ」

「なにか、あるの?」

「え?」

驚いて彼を見上げる。
澄んでいる瞳が、じっと私を見つめている。
目を逸らせない、否、逸らさせないと言っているよう。
何もかも見透かされてるような感覚に陥った。
少しだけ、ほんの少しだけその瞳が、怖くなった。

「前に家に送った時、家の明かりがついてなかった。 ただ単に親は仕事が忙しいのかなって、そう思った。けど言ってたよね、佐藤さん。」

「な、なにを?」

動揺してか言葉が詰まる。
上手く息が吸えない、そんな感じがする。
なんだ、この感覚、少し、苦しい。

「またか……って、湊はよく聞こえてなかったみたいだったけど、俺にはちゃんと聞こえてたよ。 そう言った佐藤さんの顔が辛そうだった。 家族関係のことに部外者の俺が首突っ込むのは良くないことだって分かってるけど、良ければ聞かせてくれない?」

もう、限界か。 そう思った。
いつまでも黙って、隠し通すのも、全部、全部。
家族関係のことも、私自身のことも……もうしんどいんだ。
感の鋭い彼に隠し通すのもなんだか酷く、めんどくさい。
彼になら、もう、伝えていいんじゃないか。
そう思ったんだ。

「話す……今日の帰り…。 聞いてくれる…?」

恐る恐る、そう聞く。
彼はなんと言うだろう、やっぱりゴメンって言われる?
良いよだなんて言うだろうか。
不安で不安で仕方なかった……けど。

「もちろん」

彼の言葉は了承と受け取れるものだった。
優しく微笑みかけて、そう言ったのだ。
彼の背景に見える空に、もうオレンジはなかった。





「ごめん、湊がなかなか行かせてくれなくて……」

「大丈夫、私もさくらに色々言われた……」

焦る高橋くん、若干恐怖を感じている私。
お互いの気持ちは全く別のもの。
これから話すことに、彼はどう思うだろうか、心臓の鼓動が強く強く波打つ。
1回落ち着いて。 大丈夫。 そんなの根拠なんてどこにもないのに。 どうしよ、拒絶されたら、だうしよう、彼の優しい顔が全く別のものになったら……。
どうしよう、と私の中は不安でいっぱいになった。
不安で不安で仕方ない。
ふと目に公園が見えた。
今は誰もいない、あそこで…話そう。
大丈夫、大丈夫。

「あの公園で話そう?」

「わかった」

大丈夫、大丈夫。
根拠なんてどこにもないけど。
大丈夫、大丈夫。きっと大丈夫。
緊張と不安で、いつのまにか手が震える。
公園のベンチに腰を掛ける。
早く、早く。 話さなきゃ。
でも何から話せば……。
深呼吸で吸う息が、吐く息が、震えていた。
どうしよう、大丈夫……。

「落ち着いて、焦らなくていいからな」

「うん……」

もう一度、落ち着いて、深く息を吸い、深く深く吐く。
話そう、全部。 ゆっくり落ち着いて、今の私が話せる、全部。 伝えよう。

「実は、私ね、_________なんだ」

「え……」