「大きい……」

「ひっろーい!!」

「海見えるぞ!海!!」

「部屋案内するからついてきて」

7月21日、私たちは今、沖縄にある高橋くん一家が所有する別荘に来ていた。
白を基調とした大きな別荘。
まるでそれは、どこかの国のお城を連想させる。
そこかしこにある家具は素人目の私でもわかるほど、高価なものだった。
触れればすぐに壊れてしまいそうなものまで、綺麗に置かれ、部屋には清潔感がある。

「なあ、皆!今日近くで祭りがあるらしいんだけど、行くか?」

「祭り!?」

「行く行く!行きたい!」

「その代わり明日からしっかり宿題やること!」

「陽菜〜〜」

「佐藤〜〜」

そんなふたりの声を無視して、私は胸を踊らせた。

「ふふっ、お祭り楽しみだなあ」





夜、お祭りが開かれる神社にはたくさんの明かりと屋台が立ち並び、たくさんの人が歩いていた。

「人多いね」

「だな」

「う、うん」

「佐藤さん大丈夫?」

「大丈夫、大丈夫!」

本当に人が多い。お祭りってこんな感じなんだ。
田中くんと高橋くんは背が高いから見つけやすくて助かる。

「あ!あれ美味しそう!」

「よし!行くぞ!」

「おー!」

そう言いながらさくらと田中くんは人混みの中を走っていった。
私はというと、人の流れに呑まれそうになっていた。
急がないと。そう思った途端、誰かにぶつかってしまったらしい。

「きゃっ」

ぶつかった相手は「すみません」っと言いながら進んでいってしまった。
しまった、足を止めてしまった。
見つかりやすいとか思ったけど、嘘。
全然見つからない。

「佐藤さん!」

「高橋くん!」

3人が行ったと思われる方向から高橋くん1人だけが走ってきてくれた。

「あ、ごめんね、遅くて」

「いや、あの二人が早いだけだよ、俺たちはゆっくり行こう」

「うん……!」

そこから、2人でゆっくりと回って行った。
手を繋がれた時は驚いたけど、逸れないようにらしい。
そして私たちが屋台を少しづつ少しづつ回っていると、どこからか子供の泣き声が聞こえた。

「あっ」

4歳か5歳くらいの男の子だった。

「高橋くん、迷子みたい!」

「え?あっホントだ」

「行ってみよう!」

幸いそこは人が少なく、男の子のところまではすぐに行けた。

「ねえ君、1人?お母さんはどうしたの?はぐれちゃった?」

「ぼ、僕がね、お母さんの手放しちゃって、そしたらね、人に押されて、お母さんとはぐれちゃった…」

と泣きながら教えてくれた。
どうしよう、やっぱり迷子センターみたいなところに行ったほうがいいよね。

「よし!兄ちゃん達とお母さん探そう!」

「え?」

高橋くんは男の子を肩車していた。

「見つかるかな?」

「分からないけど、探してみよう!」

「う、うん!ねえ、お名前なんていうの?」

「僕、蓮だよ」

「うん、蓮くんね。じゃあ、蓮くんは上からお母さん探してね」

「うん!」

そして私たちは蓮くんのお母さん探しを始めた。
それが10分前の話だ。
呼びかけてはいるものの、なかなかあらわれてはくれない。
蓮くんも高橋くんに肩車をしてもらい、上からキョロキョロ見回して探してくれているけれど、やっぱり見つからない。
心做しか、高橋くんも疲れてきているようだった。

「高橋くん1回休もう」

「そうだな」

近くのベンチに座る。
蓮くんは……不安げな表情だ。
こういう時、なんて声掛けてあげればいいんだろう。

「大丈夫だって!絶対見つけるからな!」

「うん……」

こういう時、子どもを励ましてあげられる高橋くんはカッコいいと思う。
妹想いで、さっきだって2人が走っていったのに私の心配をしてわざわざ戻ってきてくれて、逸れないようにと手を繋いでくれて、迷子の子供のお母さん探しまでして。
優しくて、勉強も運動もできて、カッコよくて。
チラッと横目で高橋くんを見ると、蓮くんと喋っていた。笑顔が綺麗な人だよなあ……って何考えてるの!?私は!!

「佐藤さん?顔赤いけど大丈夫?」

「え!?あ、うん!大丈夫!」

慌てた私は立ち上がったけど、立ち上がってもすることないよー……。
はぁ……

「蓮くんのお母さーん!!」

と一度叫んだ。
すると、遠くから蓮くんを呼ぶ女の人の声がしてきた。
そして人混みをかき分けてやってきた女の人を見て、蓮くんは笑顔になる。
それだけで分かった。

「お母さん!!」

「蓮!!良かった!蓮!!」

そう言いながら女性、蓮君のお母さんは蓮くんを抱き寄せ、目尻には涙が溜まっていた。
すると、ハッとしたように立ち上がり私たちに深々とお辞儀をしてくれた。

「ありがとうございました!」

「いえ!見つかって良かったです!」

「蓮、もうお母さんの手放しちゃダメだぞ?」

「うん!」

「じゃあね!姉ちゃん!兄ちゃん!」

そう言いながら手を振って人混みの中へ入っていく蓮くんに、私と高橋くんは笑顔で手を振り返したのだった。