雲ひとつない快晴。太陽が暖かく、優しく、空から私を、私たち人々を照らしている。
木は桃色の花を咲かせ風に揺られ静かに音を立てている。
花は咲き、緑の葉も所々に見え始める季節。
それは、春。
歩いて約30分かかる通学路。
自転車で行けばいいものを私はわざわざ歩いていく。
それにはやはり理由があった。
自転車はもちろん速い、だからきっと楽だろう。
けれど、速ければ速いほど見えてくるものが少ない。
だが、徒歩ならば、自転車に乗っていては気づかない美しいものに多く気づける。
私はこの世界の美しいものをたくさん、たくさん、目に焼き付けたい。
桜並木の中を歩いていく。やっぱり桜は綺麗だなと思っていると、キラッと何かが太陽の光を反射した。
なんだろう、そう思い近くに行って拾ってみるとそれは銀色の十字架の小さなキーホルダーだった。

「これ、どうしよ……」

どうしようか、と悩んでいると数メートル先に下を見ながらこちらに向かってくる人がいた。
恐らく、高校生。身長は175cmほどありそうな人だった。
もしかして……
私はそう思い、その人の元に歩み寄る。

「あの……」

「あっ、はい!」

黒髪に割と色白な人。私と同じ制服でネクタイは赤。顔も整っていて、世間一般的に見ても、彼はイケメンだった。
そんな彼に先程拾ったばかりのキーホルダーを見せる。

「もしかして、これ落としましたか?」

「あっ!そうです!それ俺のです!」

「どうぞ……!」

キーホルダーを差し出すと彼はありがとうっと元気よく言って受け取った。
キーホルダーを見て、どこにも傷がついていないことを確認すると安堵のため息を漏らす。
そんなに大事なものだったのかな?

「それ……」

私がそう言いかけるとどこからか、おーい!と呼ぶ声が聞こえた。
その声が聞こえると、彼は後ろを振り返り手を振った。
向こうでは、早く来いよー!と聞こえてくる。
呼んでいる人物は恐らく、彼の知り合いなのだろう。
彼も、今行くー!と応えていた。

「すみません、それじゃあ俺はこれで失礼します。
キーホルダー、ホントに助かりました!ありがとうございます!」

「あっ、はい!どういたしまして!」

私がそう応えると、彼は笑って軽くお辞儀をしたので、私もお辞儀をした。
すると、彼はもう一度笑って走っていった。
彼が走った方向を見つめ立ち止まっていた私。
名前、聞いておけばよかったかな。
まぁ、すぐにわかるか、と思い歩き出す。

「陽菜ー!!!」

今度は彼が走った方向とは逆方向から私を大声で呼ぶ声がした。こんなふうに私の名前を呼ぶのは今まで出会った中でただ一人。

「さくら!おはよう!」

私を大声で呼んだ彼女。鈴木さくら。
高校一年生の元気で明るい女の子。
そして私の幼馴染。

「おはよう!じゃない!!なんで置いてくの!!?高校も同じなんだから一緒に行こうよ!」

「あはは……ごめんね」

「もう……!」

未だにブツブツ文句を言いながら歩くさくらを苦笑しながら見る。
なにを思ったのか、あっというさくらにまたなにか忘れ物かななんて失礼なことを思っていたがそうではなかった。

「さっきの男!なんか話してたみたいだけど知り合い?」

「ううん、違うよ。キーホルダー落としたみたいだったから拾ってあげたの。」

私の応えに不満だったのか、ふーんと言った。
だが、すぐに話題は溢れてきた。学校のこと、親のこと、最近面白かったこと。
そんな他愛もない会話をしながら、学校までの道を歩いていった。