しばらくして、店が落ち着くとテーブルには、トマトのパスタや、サラダが並んだ。美夜も一緒に皆でテーブルを囲う。
おやじさんと美夜さんの手には缶ビールがある。この間、酔って溺れた手前、さすがの俺も飲めない。それに、車だ。


「おい。なんだよ姉ちゃん」

いきなり、扉を開けて入ってきたのは勇太だった。


「だって、飲みたかったんだもん」

美夜さんの返事より、勇太が俺の姿にぎょっと驚いたのが分かった。


「勇太君も食べてって」

　梨夏さんの声に、何か言いたかった事を飲み込むよう勇太は言葉を返した。


「あ、俺もいいですか。ラッキー」

　勇太は、大学で見る時とさほど変わらないテンションだった。


　夕食は、奏海を中心に賑やかで、笑いが絶えない。こんな風に食事をした事があっただろうか？　
　幼い頃から両親は仕事で居ないことが多く、兄と二人で使用人に囲まれての食事が殆どだった。

　奏海も、梨夏さんも、俺に遠慮なく言いたい事を言ってくる。心地良かった。多分、ここには、俺が志賀グループを背負っている人間である事を誰も知らない。だから、俺を楽にさせていたのかもしれない。

　勇太以外は……


　食事が終わり、後片付けを手伝っていると、背後に人の気配を感じた。

「お前、ここで何やってんだ」

　勇太の低い声だった。