「おめでとうございます」

 海里さんは振り向き、驚いたように目を見開いていた。

「何の事だ?」

「別に隠さなくてもいいわよ。だから、忙しいのなら店の事はいいっていったのよ」

「おい。落ち着けよ!」

 海里さんの、口調が強くなった。


「私だって、知っている事があるんだから……  海里さんは、私とは住む世界が違うのよ」


 言ってしまった事に、自分でも驚き、私はその場から走り去った。


「おい、待て!」

 海里さんの声が、背中に響いたが止まる事なんて出来ない。

 その時、高橋君とすれ違い、嫌な予感はしたが、これ以上、海里さんの側に居たくなかった。


 なんで、こんな事になっちゃったんだろう? 
 言い出したのは私…… 
 自分が悪いのは分かっている。

 だけど、苦しくて、溢れ出す感情を抱えきれなくて、言うつもりなんて無かった言葉が出てしまった。

 私は、何を言うべきだったんだろう?

 何を言えば、この苦しさから解放されたんだろう?

 そして、私は、海里さんに何て言って欲しかったんだろう?

 海里さんは、本当にもう来ないかもしれない……