キッチンに入り辺りを見回すと、客など居なかった。
 もちろん、パスタの注文などない……

 私は、そのまま二階へと上がり、ソファーへと崩れ落ちた。


 今、海里さんを好きって気が付いたのに、同時に、海里さんは婚約した。気持ちの行き場の無さに、苦しさがまた混み上げてくる。

 高橋君の言った意味は分かっているが、どちらかと言えば怖いと思ってしまった。


「奏海……」

 美夜さんが、二階のドアをそっと開け入ってきた。手には、ミネラルウォータが二本ぶら下がっている。

「……」

 私は、美夜さんの顔を見た途端、涙が溢れでてしまい、思わず声を出し泣き出してしまった。


 美夜さんは、何も言わず私の横に座ると、優しく背中を摩ってくれていた。

 どれくらい泣いただろうか……

「さあ、少し飲んで、落ち着くから……」

 美夜さんは、ペットボトルの蓋を開けると私に差し出した。

 私は、ペットボトルを受け取り口へと運んだ。冷たい水が、口から喉に通り気持ちが落ち着いてくる。


「良かった……」

 美夜の意味不明の言葉に私の手は止まり、伺うように顔を上げた。


「ああ、ごめん、違うのよ。奏海が、自分の事で泣けて良かったって思ったの……」


「どういう事?」

 私は、擦れた声をなんとか出す事が出来る状態だ。