私は、慌てて涙を拭うと立ち上がり、店の中へと戻ろうとした。

「海里さんは、奏海さんから離れて行く人です」

「やめて! 今は言わないで!」

 私は、高橋君に背中を向けて言った。

 まだ、気持ちの整理が付けられず混乱したままなのに、他人の言葉は痛くてたまらない。


「僕なら、奏海さんの側に居ます。ちゃんと僕の事も見て下さい」

 私の頭の中は、益々混乱していき、高橋君の言った言葉を考える余裕なんてない。私は、背を向けたまま、大きく首を横に振るのが精一杯だった。


「今すぐにとは言いません…… 僕が側に居る事だけは覚えておいて……」


 背中から、高橋君が近付いてくる気配を感じた。逃げたい! そう思うのに、体が動かない。

 背後に、高橋君の息を感じた時、ひやりと冷たいものが背筋を通った。

 怖い……

 どうしよう……



「奏海。パスタの注文入ったわよ」


 突然の美夜さんの声に、私はくるりと向きを変え高橋君を交わすように、店の中へと駆け込んだ。